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東京地方裁判所 昭和60年(ヲ)125号 決定

申立人 株式会社サンワードシンワ

上記代表者代表取締役 瀬間洋

上記申立人代理人弁護士 雨宮真也

同 川合善明

同 緒方孝則

同 木村美隆

主文

当庁執行官は、上記基本事件につき、昭和六〇年一月一六日付で岡田初枝、桜井昌尚、佐藤敏実、新倉肇、籾山佐太郎からの昭和五九年一二月二四日付配当要求を受理した処分を取り消せ。

理由

1  申立人の本件執行異議申立ての趣旨及び理由は、別紙「執行異議の申立」と題する書面写記載のとおりである。

2  上記基本事件の記録によると、申立人は昭和五九年一二月一一日、申立人を債権者、株式会社ヌーベルを債務者とし、別紙債権目録記載の債権が存在するとして、別紙製品明細記載の動産につき、商法五二一条に基づく動産の商事留置権の実行としての競売の申立てをしたこと、当庁執行官は、上記申立てに基づき、同月一四日上記動産を差し押さえたこと、ところがいずれも同月二四日付で、上記債務者との雇傭契約に基づく同年一〇月二一日から同年一一月二六日までの給料及び解雇予告手当の先取特権があるとして、岡田初枝が金五七九、五二三円(給料金三一六、一〇三円、解雇予告手当金二六三、四二〇円)、桜井昌尚が金七〇六、〇二三円(給料金三八五、一〇三円、解雇予告手当金三二〇、九二〇円)、佐藤敏実が金四七三、〇八八円(給料金二五八、〇四八円、解雇予告手当金二一五、〇四〇円)、新倉肇が金六九二、一六三円、(給料金三七七、五四三円、解雇予告手当金三一四、六二〇円)、籾山佐太郎が金七五二、〇七〇円(給料金四一〇、二二〇円、解雇予告手当金三四一、八五〇円)の各債権につき配当要求をし、当庁執行官はこの配当要求をいずれも昭和六〇年一月一六日付で受理する処分をしたこと、以上の事実を認めることができる。

3  そこで、本件執行異議申立ての当否について検討するに、留置権者は目的物を留置する権能を認められているに過ぎず、留置物から生ずる果実(民法二九七条)を除いては優先弁済権を有しない。留置権の本来の目的は、担保目的物を換価して被担保債権の弁済に充てる一般の担保権とは異なり、債権の弁済があるまで目的物を留置することによって弁済を心理的に強制することにあるものと解される。したがって留置権者に競売申立権が認められるとしても、それは債権の弁済期が到来しても支払がないときに、目的物の留置を続ける煩を避けて換金することを認めたに過ぎず、その実質は、目的物の換価のみを行うことを目的とするいわゆる形式的競売そのものではないが、これに極めて類似するものということができる。民事執行法が留置権の実行としての競売を認めながら、これを担保権の実行としての競売の規定である一九〇条に規定せず、形式的競売を規定した同一の条文である一九五条に「留置権による競売及び民法、商法その他の法律の規定による換価のための競売については、担保権の実行としての競売の例による。」と規定したのもその趣旨と解される。

そうであるとすれば、留置権の実行としての競売も形式的競売と同様、債権の弁済を目的としている担保権の実行としての競売の手続である配当要求に関する規定は、その性質上適用の余地がないものといわなければならない。

以上の次第で、上記基本事件につき、岡田初枝ほか四名からの給料等の先取特権に基づく配当要求はこれを受理すべきものではなく、これを昭和六〇年一月一六日付で受理した当庁執行官の処分は、配当要求に対する執行官の実質的審査権の有無と関係なく違法であることが明らかであるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 中根勝士)

〈以下省略〉

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